アンチエイジング・プログラム

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チョモランマ山頂、標高8848メートルでは酸素濃度が平地の3分の1となり、人間の有酸素能力が標高とともに低下する値を体力年齢に置き換えた場合、75歳の三浦雄一郎の体力年齢は150歳となります。(登山運動生理学、鹿屋体育大学、山本正嘉教授)。この推定年齢は世界最高齢の122歳で長寿を全うしたフランスのジャンヌ・カルマンさんの実年齢をはるかに超えた状態で登山活動をすることであり、数字のうえでは100歳の若返り(アンチエイジング)を目指さなければ、8000メートル峰の超高所での活動は難しく、さらに心房細動・不整脈と向き合っての挑戦となります。
今回のチョモランマ・プロジェクトでは、大きく分けてふたつの医学&科学的研究とアプローチを行っていきます。

アンチエイジング研究 ①

高所登山と心房細動

<運動耐容能に及ぼす影響とリズムコントロール治療による改善効果>

心房細動(不整脈の一種で、心臓のうち心房の部分が不適切かつ異常に速く興奮するために、 心房が細かく震えた状態になり、その結果心拍出量が低下し、かつ血栓形成が亢進する病態)は、最も多い不整脈のひとつであり、高齢者に発生することが知られています。三浦雄一郎は2005年のチョモランマ視察遠征においてこの症状を発生し、心血行動態悪化による 運動耐容能の低下と高所環境における血栓易形成が問題となりました。さらにこれは 極地環境における行動で最も重要なモチベーションの低下に繋がり、その症状は自然停止することなく持続性、慢性と移行した為、帰国後、小林義典先生(日本医科大学付属病院・第一内科)、高山守正先生(榊原記念病院・循環器内科部長)、家坂義人先生(土浦協同病院・副院長)、鵜野起久也先生(土浦協同病院・循環器内科部長)という循環器医療の分野で秀でた4名のドクターチームによって不整脈治療をスタートしました。2度にわたってカテーテルアブレーション(心房内焼妁治療)手術を行った結果、症状は改善し、それに伴い生活の質(QOL)も向上しましたが、この状況が超高所環境においても維持しえるかどうかは不明で、チョモランマ登攀の各段階において、担当医が同行して心電図、心機能等のチェックを行い、以下のテーマについてデータを集積し研究を進めていきます;

1)カテーテルアブレーション、薬物治療を含めたリズム・コントロール治療の超極地環境における有効性

2)高齢者の心機能、自律神経機能に対して高所環境がもたらす影響(簡易型の心電図、心エコーを持参)

3)心房細動患者のために特別に作成されたQOLスコアー表を用いた、高所におけるQOLの改善度(治療前、試験登攀時のデータと比較する)

4) 高所環境が血小板凝集能、血液凝固機能に及ぼす影響

70歳を越える高齢者を対象とした、世界最高峰登山という極度の精神的、肉体的ストレスが負荷された時の生理学的反応、治療の効果を検討した報告は過去に認めません。従って、高齢者において高所登山が流行し、それに伴い不慮の事故が増加している現状を考慮すると、本研究によりその対策のための重要な情報がもたらされると考えられます。また事前に鹿屋体育大学で行った測定で、三浦雄一郎は年齢よりもはるかに若い肉体年齢を有していましたが、はたして高所でその体力を維持しえるものかどうか、三浦豪太のデータと比較して検討することによって、アンチエイジング医療における基礎的なデータになることが期待されます。

アンチエイジング研究 ②

低酸素環境下における遺伝子発現について

1970 年代前半まで、チョモランマ山頂は無酸素では登頂不可能とされていました。しかし、1978年にラインホルト・メスナー氏が無酸素登頂に成功し、その後も十数名ですが人間の生存限界であるといわれている8848メートルの山頂に無酸素状態で滞在して帰ってきています。彼らがチョモランマ山頂に無酸素状態でどのように到達できたかということはその後の研究により解明されつつあります ― 例えば超高所では肺が吐ききる二酸化炭素の量が増え、より多く酸素を肺に取り入れやすくなる、また高度順化が進むにつれ体内の赤血球が増えより多くの酸素を運搬できるようになる -といった生理学的変化が認められています。しかし、これらの高所で観察される変化が「何故」起きるかということに関しては、ほとんど研究されていません。

今回の遠征プロジェクトでは低酸素環境でどのような変化が体内で起きているかを遺伝子レベルで解析を試みます。ミウラ・ドルフィンズと株式会社アンチエイジングサイエンスは順天堂大学、 加齢制御研究の第一人者である白澤卓二教授のもと、標高4000メートル(酸素濃度12.4%)の高所をシミュレートした低酸素室にて、米国アジレント社が開発したDNAチップを使用し低酸素室滞在前後に、どのような遺伝子が発現増強あるいは発現抑制するのかという研究を07年8月に開始しました。現在、この研究には三浦雄一郎・豪太親子を含めた登頂隊員4人のサンプルの他、同等数の健常人をコントロールグループにおいて研究が続いており、この過程において、遺伝子というのはこれまでイメージしているような固定された肉体設計図ではなく、その発現は、低酸素などの環境変化に対してダイナミックに反応し変化するものだということが分かりました。アジレント社のDNAチップは遺伝子の発現変化を標識した色によって表現し、低酸素という刺激に対して人が有する2万3千個の遺伝子のなかで、発現が増強した遺伝子と発現が抑制された遺伝子がまるで虹をちりばめたように色鮮やかなパターンで識別され、このパターンを解析することによって低酸素がどのような影響を人体におよぼしているかという研究を行っていきます。

酸素は多くの生物がエネルギーを生み出すのに欠かせない気体であると同時にその代謝過程で活性酸素という生物の遺伝子を傷つけてしまう毒性も有しています。

なぜ長寿村といわれている村が世界では1000m~2000mの標高に存在するのか、なぜ高度順化には個人差があるのか、また人により加齢速度がなぜこれほどまで違うのか。そして、三浦雄一郎がチョモランマの頂上に人類史上最高齢である75歳で立つということは如何なる意義があるのか、この最先端の研究にてアンチエイジングのヒントを探っていきます。

伝えていきたいものは・・・
高所登山をより安全にする為の取り組み

ミウラ・ドルフィンズではチョモランマ・プロジェクトの過程のなかで、所有する低酸素室を用いて高所登山の安全について様々な取り組みを行っています。今後も定期的に高所登山についての体験会や低酸素トレーニング・プログラムを一般の方々へ提供してプロジェクトを活かしていきます。

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