遠征日記 4月21日

<三浦豪太日記>

今朝起きると、少し気分がいい。
SPO2と心拍数を計るとSPO283、心拍87
心拍数は昨日より大分落ち着いたものの、まだいつも平均より上回っている。
今日出発しようか考えたが、考えるまでもなく、今日出発しなければ次追いつくのはゴラクシェプになってしまうので、歩いても大丈夫なことを願って出発する。
歩き始めて、あまり足に力が入らないことに気がつく
昨日まで寝たきりだったので、病み上がり状態だ。
それでもいつもよりペースをおとして、ディンボチェのステゥーパのある丘を目指して進む。呼吸もすぐ上がる。今日は心拍計を自分用につけてみたので見るとなんとすでに145とある。
外に出てから100mも歩いていないのにこれほどあがっているのだ、いつもなら、心拍数は120~130に保っているというのに。
まるで高度順化をしていない人のようだ。
前回のディンボチェ滞在と合わせてこの高度に8日間はいるのに、一体全体これはどんな風邪なのだ!!!すごろくのように、風邪を引いたので高度順化マイナス1000mとか言う風邪なのかとおもいながら、ゆっくりと登る。
出発したことを後悔し始めたが、すでに僕の荷物をポーターがロブチェに向かって出発しているので行くしかない。とどまっていては寝袋もないのだ。

8時30分ちょうどに出発して、ツクラに10時半につく。
ちょうど2時間。調子が悪いにしては悪くない時間だ。
ツクラは標高4700m地点にある。ちょうどディンボチェ、ペリチェとロブチェの中間にあるバティのみの村で、ここから左方面に行くとチョラツェを超えてゴーキョピークに行き、右に行くとエベレストBC方面、分岐点にもなる箇所だ。
その為、ここにはひっきりなし人がいる。ここで昨日、夕食を一緒にしたスコットランド人とチェコ人とあう。
昨日、僕が制作したヤックの理想系、やっくんの話をしていたところ、ちょうど本物のヤックが目の前を通った、見ると僕たちの荷物を運んでいる。これがチャンスとばかりスケッチブックを出す。
ヤックをスケッチしていると、なんといつの間にか1時間ほどたってしまった。
お茶2杯しか飲んでいないのにこれは悪いと思い出発する。
ツクラからロブチェに向かうと最初に急な坂を登りきらなければいけない。標高差にして150mほど。
何度も通っている道だが今日ほどつらかったことはない。いくらゆっくり行っても激しい運動しているように体は勘違いしているのだ。それとも本当になまってしまったのか…
45分ほどかけて登りきる。
坂を登りきると、ディンボチェ方面が綺麗に見えるポイントがある。ここにエベレストでなくなったシェルパやクライマーのメモリアルがあるのだ。
38年前に父がエベレスト大滑降の時、アイスフォールのルート工作をしていた時、崩壊事故でなくなったシェルパたちもここに祀ってある。
ここを通る時は必ず、手を合わせて一つ一つ拝んでいく
最初は今回の遠征の無事を祈ろうかと思ったが、もし今回の僕たちのシェルパ達、特に親しい数人も同じ目にあうことがあるかもしれないと考えると・・・・それも違うと思い、
「ありがとうございました、これから山に向かいます、安らかに眠ってください」と
一つ一つ手を合わせた。
するといつのまにかサングラスの中が涙でいっぱいになってしまった。これも風邪のせいだろうかと思い、ペンバと共にロブチェに向かう。
ロブチェに向かう途中も何度か座り込んだ。
脈はいくら休んでも130を下回ることはない。
これで、登山が進められるかと心配しているうちに、ロブチェについてしまった。
産経新聞の木村さんと早坂さんがちょうどECOロッジから出てくるところだった。
昼食を食べ終わったところらしく、叫ぼうかなとおもったがその元気もなくその方面に歩いていくと、向こうが気づいてくれた。
木村さんが、大丈夫ですかと聞かれたので
「気分最高」といいながら座り込んだ。
僕たちはECOロッジという、とても素敵なロッジに泊まった。アシアントレッキングという会社が建てたロッジなのだが、綺麗でシャワーまで完備している。ただし、僕はそれを使うのに今日はもっとも縁遠い。
お昼に兄はここのナポリタンのスパゲティは最高だといってオーダーしてくれた。
確かにとってもおいしかった、トマトソースも自家製なのか、コクのあるソース、適度な塩味、そしてハーブも加えてあり絶妙なマッチングだった。何より麺がアルデンテだったのがいい。
以前、ロブチェのもうひとつ上の谷にイタリアの観測基地があった。ピラミッド型をした基地でその中に入るとイタリア本格派スパゲティが食べられたものだったが、兄に聞くと、今日行ったらもう観測所はしまっていたという。
ということはこのECOロッジのパスタはクンブ地方最高の味を持つのであろう、と僕と兄は意見を一致するのに至るのであった。
僕は、一応、低酸素の勉強をしていたので、ついてすぐに寝るのはいけないというのを知っていたので、一生懸命お昼に書いたヤックの続きを書いていた
しかし、どうも熱でボーっとしていて集中力がない。
SPO2は高い値をだすのだが、心拍数が異常に高い、休んでいるというのに120だ。
これは高山病というよりやっぱり風邪だという自己完結的な答えを出し、ベッドの上にあったかい格好をして寝る。
すると体中から脈を打っているかのようにドックンドックンとする。
ベッドの上で10分も寝てもいない間に兄が来て、これから日本に連絡をするという。
佐治さんが巨人軍の原監督のための激励会を行うので、お父さんがヒマラヤから激励する、という趣旨のものを衛星電話で行うのだ。
これは面白いと思い行ってみる。
回線はクリアに聞こえるのだが、どうやら壮大な激励会のようで原監督は一方的に
「三浦さん、これから大変でしょうが、がんばってください」
と何度もいっている。どうやら場内がうるさすぎてこっちの声が聞こえないようだ。
お父さんが原監督に「がんばってください」というまもなく電話が切れる
激励するつもりが反対に一方的に激励されてしまった。
その後、姉に伝えて、監督にがんばってくださいというメッセージを伝えるのみとなってしまった。
その後また寝て、夕食前にダイニングに行くと、父と兄が、日本人と話している。
その日本人は松原さんといって、ブラジルに帰化した日系人。
ブラジルで商社に勤めていて、今は定年退職をして、世界7大陸の最高峰、セブンサミッツに挑戦しているという。その方はブラジル人の女性を連れてきており、彼女はなんと無酸素でエベレストに登るというからびっくりだ。
松原さんが持っていた、自家製のプロポリスを分けてもらった。これはたいそう風邪に効くというので使ってみた。なんともいえないフレーバーが口の中に広がる。
プロポリスを飲みながら外を見るとヌプツェがオレンジ色に光っている。
久しぶりにディンボチェ以外からの景色を見たような気になり外にでて写真を撮った後、絵を描き始めた。最近何かと絵を描いてしまうなーと思いながらも没頭するのであった

その後、父も日本から持参した高価なプロポリスをくれる。夜に起きたらそれを口に入れればいいということだったが、夜はほとんど起きることなく朝を迎えた。

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<夕景のヌプツェ>

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