遠征日記 3月29日

<三浦豪太日記>

今日はもともと、ディンボチェからパンボチェかタンボチェまでしか降りないつもりだった。
パンボチェなら1時間半、タンボチェなら3時間とみていたので、みんな、ゆっくりとおきて出発するつもりでいた。
ところが父が朝突然、「やっぱりナムチェまで今日は思い切って行こう!」と、言い出した。
もともと、予定より一日早くディンボチェを降りるのは、父のヒザを心配してのことだった。
しかし、歩いているうちに調子がよくなってきたのか、そして気持ちも大きくなってきたのか、急遽、ロングトレッキングを強行することになった。
僕は昨日ローツェを描けなかったので、朝のうちにローツェを描きにペリチェの途中まで登りなおしてから、後でみんなに追いつく予定で、先に出発してお絵描きをしていた。
僕はお絵描きに夢中になってしまったため、結局、1時間ほどみんなより出発が遅れた。
まあ、パンボチェまでには追いつくだろう、と思いタカをくくっていたが、パンボチェについても追いつかない。
どうやら父はとても調子よいようだ。
まあ、追いついても、埃がたくさん舞う後を歩くことになるので、久しぶりに一人歩きをエンジョイすることにした。
そういえば、この2年間、いつも父の体調が心配でほとんど父の真後ろばかり歩いていた。でも今回はほっといても大丈夫という確信があるからこそ、自分の時間でゆっくり歩けるのだなと思う。
久しぶりの一人歩きは新鮮だった。
山を見たり、写真を撮ったり、見る角度が変わるとぜんぜん違う顔を見せるアマダブラムに感嘆しながら歩く。
タンボチェまで約3時間、かなり満喫した一人の時間を過ごした。
タンボチェにつくと父、五十嵐さん、お兄ちゃんがすでにチキンカレーをオーダーして待っていた。
行きの行程で食べたここのチキンカレーの美味しさが忘れられず、昼はここにしようと前の晩からみんなで決めていた。
ここのチキンカレーは絶妙の味わいがある。
新鮮な鶏をトマトで煮込み、スパイスを加える。ただそれだけなのに美味しい。その味を研究しつつ、一口づつ味わいながらスプーンを運ぶが、途中からもうどうでもよくなり、かなりのスピードでがつがつ食べた。
たぶん、この味は日本に帰ってからも、ふと街や駅でカレーのにおいをかぐたびに思い出すことであろう。カレーマニアには是非お勧めの<タンボチェカレー>だ。

タンボチェを出たのは午後2時半。ここから一旦、プンキテンガまで下り、そして再び坂を登りなおす。 ナムチェまで4時間はかかるだろう。
実際にそれくらいかかった。
ナムチェに着いたのは午後6時30分。
みんな疲れ果てていた。
3000m以上の高度で9時間に及ぶ行動をしたのだから当然だけど。
しかし、考えてみたら、山頂アタックのときは17時間以上行動しなければいけない。しかも酸素濃度が極端に低い標高8000m以上での話しだ。
道理で前回エベレスト登頂をして降りてきたら10キロ近くも痩せていたはずだ。

今日、ナムチェまで来たおかげで、明日は一日ナムチェで休める。
よかった。夜は気兼ねなく死んだように眠る。

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ナムチェへ向かってひたすら歩き続ける雄一郎

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